お金から見える夫婦の関係
家計には、夫婦の関係が映し出されます。そこにフォーカスを当てることが、問題解決の糸口になることがあります。
月々の家計がいつもマイナスになる、という悩みを抱えた40代の奥様が、相談に来られたことがあります。
家計の状況を見ると、食費や光熱費は抑えめ、住宅ローンも完済されていました。普通ならラクに生活できるレベル。でも、家計はいつもマイナスなのです。
詳しく見ていくと、気になる支出項目が見つかりました。「自己投資」です。これは、習い事や趣味など、人生に彩りをもたらす支出項目。その金額が、毎月およそ8万円にもなっていたのです。
奥様に聞いてみると、「夫ではなく自分が使っている」とのこと。資格を取るための学びやさまざまなセミナーを受講するのに、それだけのお金がかかっているとのことでした。
「昔から、こうした自己投資をしておられたんですか?」。
そう聞くと、奥様はこう答えました。
「いえ、結婚してからです。専業主婦になってから、このままではいけないという気持ちが強くなって、いろいろ学んでいるんです」
そして、こう続けました。
「家計がマイナスになっているのは、このせいですよね。自分でも分かっているんです。でも、わたし、自分に自信がないんです。何か学んでいないと、自分を嫌いになってしまいそうで…」
私は、この出費に対して、だんなさんがどう思っているのか聞いてみました。すると「夫は何も言わないんです」と奥様。学んで資格を取得しても喜びもしない。かといって、自己投資額が大きいことを責めもしない。「もしかして、夫は自分に関心がないのでは?」と悩んでおられました。
この話を聞き、改めて自己投資の項目を見返して、私は「ああ、そうか」と思いました。
自己投資のジャンルには一貫性がなく、資格講座、カルチャースクール、セミナーと、何でも良いのかというくらいバラバラだったのです。
私は思いました。資格や学びを得ることが奥様の目的ではなく、自信がないという枯渇感、夫に感心を持たれていないのではないかという寂しさを埋めることが、本当の目的なのではないかと。
悩みの根本は、夫婦のことにある。
そう考えた私は、次のような質問を繰り返しました。
「学びの時間がなくなったらどうなりますか」「学びを減らすことはできますか」
こうした質問を何度も繰り返すうち、お相手の本音が出てくるからです。
こちらからストレートに「夫婦の関係性が問題です」と言ってしまうと、お相手はかえって心を閉ざします。
でも、こうした質問によって、ご自身が本当の問題点に気づかれると、問題解決のための一歩を踏み出せるのです。
何度か質問していくうち、奥様はようやく、家計や自己投資のことについて、だんなさんときちんとコミュニケーションをとれていないことに気づかれました。そして「ちょっと夫に話してみようかな」とおっしゃったのです。
その奥様とは、4回くらいカウンセリングの時間を取らせていただきました。
いまはもうカウンセリングには来られませんが、のちに、待望のお子さんを授かったという話を聞きました。
おそらく、学びに大金をかける傾向は弱くなっているのではないかと思います。
また、こんな例もありました。
だんなさんのお母さんと同居している女性から、次のようなメールが届きました。
「姑がお金の無心をしてくる。仕方なくお金を渡していたら、家計が火の車になってきた。何とかなるでしょうか」。
どうやらその女性は、姑さんにお金を渡していることを、だんなさんに相談できていないようでした。
「だんなさんは、このことをご存知ですか?」と聞くと、「以前、相談したことがあったけど、なんでお金を渡すんだ!突っぱねろ!と自分が叱られてしまいました。それ以来、相談していません」とのことでした。
しかし、家計の状況を見ると、かなり深刻でした。誰かの支援を受けなければ大変なことになる一歩手前だったのです。
私は、「支援を求めるという方法がありますが、誰かに相談することはできますか?」と聞いてみました。
すると女性は、「そんなことをしたら、夫が『わが家の恥をさらすのか!』と一層怒ってしまう。その怒りが子どもに向いてしまいそうで怖い。それだけは避けたい」とのことでした。
でも、この状態が続くと、最悪、離婚になるかもしれないことを自覚していらっしゃいました。女性は「そもそも、なんで義母のことで、私たち夫婦が別れなきゃいけない羽目になるんでしょう…。それが悔しい」ともらしていました。
さて、この女性が抱えていた問題の本質とは何でしょうか。
姑さんにお金を渡し続けていることではありません。
そのことについて、だんなさんとコミュニケーションがとれていないことが、問題の本質だったのです。
私はその女性に、だんなさんやお子さんたちと、どんな家庭を築いていきたいのか、どんな人生を送りたいのかを問いかけました。
姑さんとのことではなく、そこに目を向けることが、問題の解決につながると判断したからです。
女性は、自分が送りたい理想の人生を考えながら、夫との関係性を整えることが大切だ、ということに気づいていかれました。
そして、「私が相談すると、夫がイライラしてしまうのは、夫の性格の問題だと思っていたけど、何か別に原因があるのかもしれない。夫の話をちゃんと聞こうと思います」とおっしゃいました。
この女性の場合、お金の問題が完全に解決したわけではありません。しかし、夫婦の関係性を改善するための一歩を踏み出されたことは事実です。同時に、自分が働いて家計を立て直す、という決断もされました。
ファイナンシャルカウンセリングが、すべての問題を解決するわけではありません。
私が関われる範囲にも、やはり限りがあります。
でも、ファイナンシャルカウンセリングを受けていただくことで、問題に本質にたどり着くことはできます。
私の役割は、そこにあるのかもしれません。