支出を減らすのではなく、大切なことにお金をかける。

私がファイナンシャルプランナーとして力を入れたいと思っていること。それは、収入が増えたのにお金の悩みが尽きない、というお困りごとの解決です。


以前、こんな相談をいただいたことがあります。ご家庭の奥様で、ご主人と二人のお子さんがいらっしゃいました。その方は、とてもステキなお屋敷に住まわれていて、絵に描いたような裕福な生活を送っておられました。


ところが、夫婦共働きで、平均的な年収の二倍近くの収入があるのに、お金がぜんぜん貯まらないとおっしゃるのです。

家計の状況をお聞きすると、お子さんたちの教育費に毎月40万円かけているとのこと。住宅費、家事代行サービス、年1回の海外旅行費用などを合わせると、毎月かなりの額を支出しておられました。



いくら年収が高くても、出費が多ければお金は貯まりません。私は、なぜそこまで支出をするのか、その方の「心」を知りたいと思いました



その方は、一度は家庭に入られたものの、手に入れたいと思うものをすべて手に入れる生活を叶えたくて、仕事に復帰されていました。ステキなお屋敷も、海外旅行も、お子さんたちをプリスクールや習い事に通わせたりするのも、すべてその方が手に入れたいものでした。


ですが、そうしたものを手に入れた反面、貯蓄ができないという悩みを抱えてしまったのです。




実は、多くの方が、似たようなお悩みを抱えていらっしゃいます。なぜこんな悩みが生じてしまうのか。それを解き明かすキーワードが「地位財・非地位財」です。


地位財とは、誰かと比較しがちな財のこと。非地位財は、比較が生まれにくい財のことです。


地位財の代表的なものがお金。例えば、あなたが1000万円の貯金を持っていたとします。まわりの人の貯金額が500万円なら、あなたは「自分はお金持ちだなあ」と思い、幸福感を感じるでしょう。でも、まわりの人が2000万円の貯金を持っていたらどうでしょう。「自分はお金を持っていない」と思い、不幸感を感じるのではないでしょうか。同じ1000万円なのに、周囲の状況や置かれた環境によって幸福感が変わる。それが地位財です。


一方、非地位財は、誰かと比べて幸不幸を判断したりしません。休日や時間などがそうです。自分に必要な分だけ休日があれば、それで幸福だと思います。まわりより多いか少ないかで、休日の幸福感が変化したりはしないでしょう。



地位財は、その人の劣等感と強く関わっていたりもします。なぜ物やステータスがほしいのかといえば、優越感を感じたいからです。裏を返せば、劣等感を持っているということ。その劣等感を埋めるために、たくさん出費をして物やステータスを買い集めているのです。


こうした場合、いくら「切り詰めましょう」「コツコツ貯金をしましょう」とアドバイスしても続きません。なぜなら、心の持ち方が変わっていないので、出費のパターンが改善されないのです。



私は、このような〝地位財の罠〟に陥っている方に、以下のような質問をしています。



「3年後、5年後、10年後、どんな暮らしをしていたいですか?」


貯金ができなくても、物やステータスに囲まれた暮らしをずっと続けることが本当の望みなら、何の問題もないと思います。

でも、そうした暮らしにストレスを感じているなら、見直す必要があります。




先ほどの、貯金ができずに悩んでいる方は、今の生活を変えたくないけど、これ以上収入を増やすためにあくせく働くのはいやだ、と思っていらっしゃいました。

であれば、収入を増やさなくても幸福感を感じられる家計の見直しが必要です。


その方の場合は、お子さんの将来が一番大切なことでした。だから、子どもの教育費を減らさない、という選択をされました。子どもに良い教育を受けさせることが、幸福感に直結していたからです。


一方で、それ以外の支出は見直せそうでした。一番大切なことに比べれば、優先度が低かったのです。



このように、なぜそれがほしいのか、本当にほしいものは何かを突き詰めていくと、自分の中の地位財と非地位財に気づくことができます。

地位財が悪いわけではありませんが、きりがないほど求めると、健康や人とのつながりを壊してしまう恐れがあります。


大切なのは、支出を減らすのではなく、優先順位が高いものにお金をかけるという心の持ち方。重要なものから棚に入れていくという感覚。お部屋の片付けと似ているかもしれません。

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